おかえり、のっこ。虹の橋を渡った愛犬が、孫娘になった日

今回はある想いを込めて、プチ物語を書かせていただきました。

大切なワンちゃんを亡くした家族に向けて書きました。ぜひ読んでみてください。


今年の8月2日。

僕の腕の中で、13歳と少しの犬生を終えた愛犬、パグの「のっこ」が、静かに虹の橋へと旅立っていった日。

あのくしゃっとした顔、安心しきったように僕の足元でかいていた大きないびき、嬉しい時に全身で喜びを表現する不器用な姿。

家中を満たしていたその存在感が、ぷつりと消えてしまった。

静かになった部屋で、いつもそこにいたはずの温もりを探してしまう自分が、ひどく頼りなく感じられた。

のっこの体を撫でながら、僕は静かに語りかけた。「13年間、たくさんの幸せをありがとう。本当に、本当にありがとうな。もし、信じられるのなら…もう一度、僕たちの家族の元へ、形を変えて帰っておいで。いつまでも待っているから」。

それは僕の心からの願いだった。

季節は移り、夏の暑さが和らぎ始めた秋のこと。

娘夫婦が、少し照れくさそうに、そして嬉しそうに告げた。「新しい家族が、できるんだ」。

その言葉を聞いた瞬間、僕の心臓がトクンと大きく鳴った。

まさか、と思った。でも、心のどこかで「ああ、やっぱり」と確信している自分もいた。予定日は、来年の5月だという。

それからの日々は、悲しみと希望が入り混じった不思議な時間だった。

空になったのっこのベッドを見るたびに胸が締め付けられ、同時に、生まれてくる新しい命への期待が膨らんでいく。

そして、約束の春が来た。

5月の柔らかな日差しの中、娘から「無事に女の子が生まれた」と連絡があった。

逸る気持ちを抑え、病院へ駆けつける。ガラスの向こう、小さなベッドですやすやと眠る赤ん坊。

新しく家族になった息子が抱き上げて、僕の腕の中へとそっと渡してくれた。

軽くて、温かい。壊れてしまいそうなほどか弱いのに、とてつもなく力強い生命の重み。

その瞬間、僕の目から、自分でも気づかないうちに涙がこぼれ落ちた。

顔を覗き込む。すると、その小さな瞳がゆっくりと開き、僕をじっと見つめた。

その、吸い込まれるように黒く、どこまでも穏やかで深い眼差し。それは、僕が13年間、毎日見つめてきた、のっこの瞳そのものだった。

「あ…」

言葉にならない声が漏れた。

愛おしそうに、信頼しきったように僕を見つめるその瞳は、間違いなくのっこだった。

そして、僕の腕の中で安心したのか、赤ちゃんは小さな鼻にきゅっとしわを寄せ、かすかに「ふんっ」と満足そうな寝息を立てたのだ。

それは、僕の膝の上で眠るのが大好きだった、のっこの癖とそっくりだった。

もう、疑う余地はなかった。

「のっこ…。おかえり。本当に、よく帰ってきたな」

腕の中の小さな命に向かって、僕はそう囁いていた。

8月2日の、あのどうしようもない喪失感が、温かい喜びに変わっていくのがわかった。

あの日々は、永遠の別れではなかった。新しい物語の始まりだったんだ。

これからは、「おじいちゃん」として、君にたくさんの愛情を注いでいこう。今度は、もっともっと長い時間、ずっと一緒だ。

おかえり、僕の宝物。

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